パリ旅行記

以前、某国際学会のために日本から一週間ほどパリに行ったときあまりにもハチャメチャだったので忘れないうちにまとめておこうと思った。なお、ハチャメチャだったとは言ってもすべての事件は平和に解決したので不幸な話ではなく幸運な話として読んでほしい。

1. 出発前。パリへは仲の良い後輩君と行くことになっていた。後輩君とはある駅で待ち合わせをしてそこから一緒に空港に向かう約束をしていた。私は出国前日にスーツケースの中身をしっかり詰めて、当日は鞄にパスポートや財布や携帯電話などが入っているか確認してから家を出た。待ち合わせの駅に着いて、後輩君に会った。そこで気付く。後輩君は大きいスーツケースを持っていた。私は持っていなかった。……私は普通の鞄だけを持ってスーツケースを持ってくるのを忘れていたのだった。バカすぎる。
後輩君にそのことを伝え、後輩君には先に空港に行ってもらうことにして私はタクシーで自分のマンションまで戻ることにした。しかしその駅からマンションまでは距離があるので時間に間に合うとは思えなかった。タクシーに乗って、「忘れ物をしたからまずここのマンションに行ってほしい。そこで忘れ物を取ってくるので私が戻るまで待ってもらって、その後空港に行ってほしいのだけど、大丈夫か」のようなことを伝えた。運転手は快諾してくれた。急いでることは最初自分からは伝えなかったけれど、マンションに近くなってきたあたりで運転手に色々聞かれるうちにバレた。運転手は驚いていたが、この調子だと空港に着くのは搭乗の30分前になるかもと私が言ったら「なーんだ、30分あれば全然大丈夫じゃない。」と急に楽観的になった。私が「でも国際線ですし……」と言っても「いやー絶対大丈夫だよ」と根拠も分からない自信を持っていた。マンションに着いてスーツケースを取り、タクシーに戻る。空港までは直接タクシーで行くよりある駅までタクシーで行ってから電車に乗り換える方が速いとのことだったので、そのようにした。電車の中では後輩君と連絡を取りながらオンラインチェックインをしようとしたが、なぜかシステムの不具合でできない。絶望的になってきて、私はツイッターにワーワーつぶやいていた。すると、空港に着いていた後輩君が、私の分も彼がチェックインできるらしいと伝えてくれた。しかも、彼が空港会社のスタッフに聞いたところ30分前に着いても大丈夫だというらしい。カチカク(勝ち確定)になった。そうして私は無事に空港に着き、後輩君と会ってハイタッチを交わし、何事もなかったかのように搭乗した。
(ちなみに、その飛行機の中では唐突に未解決問題が解けて、後に論文が書けた。)

2. パリ到着。パリには午前中に着くことが分かっていたので、後輩君と一緒にまず観光をすることにしていた。観光するにあたって荷物が邪魔なので、どこかに一旦預けたいところ。私はパリから少し離れた場所に泊まる予定だったので荷物を置きに行くには手間がかかるが、後輩君はパリ内に泊まるのでそちらに私の荷物もまとめて置いて行こうということになった。その後輩君の宿泊先というのは、ホテルではなかった。あるフランス人が個人で自分の家の部屋を旅行者に安く貸しているらしく、そこに泊まると前から言っていた。そのフランス人は写真家をしているゲイで(ちなみに後輩君はゲイではない)、彼のホームページには「女は嫌いだ」みたいなことが書いてあるらしい。女である私はその家に入れすらしないのではとも思ったが、後輩君が「聞いてみたら大丈夫だって」と言っていたので恐る恐る一緒にそのゲイ写真家の家に入った。ゲイ写真家はとても暖かく迎え入れてくれて、私たちにお菓子やお茶を出してくれた。女が嫌いそうには見えず、優しい人だった。家の中はお洒落で写真や本が並んでいる。正面には、青空の下で上半身裸の男たちが肩を組んで並んでいる大きい写真が飾られていた。この空間にある写真はだいたいそういったものである。本棚の本のタイトルを見ると、フランス語なので詳しくは分からないが多分性的な単語が書いてあった。(フランス語と英語は似た単語が多いのでなんとなくわかる。)ゲイ写真家は私たちとすこし雑談をした後別室に行き、二人になった私たちは軽く話しながらお菓子を食べた。そこで後輩君がトイレに行って、少しの間一人でボケっとしていた。するとそのうち後輩君が疲れ果てた表情をして帰ってきた。「ショッキングなものを見てしまいました……」と言われた。私は具体的に何を見たのかは聞かないでおいた。もともと後輩君は、興味本位でわざわざこのゲイ写真家の家を選んで泊まることにしていたのだ。だから彼に怖いものなんて何もないと思っていたので私には意外だった。私が「ま、まあ、別に実害があるような何かじゃないんでしょ?」と言うと、「(その何かを見ることによる)精神的な害があるんですよ……!」と返された。本当に、その精神を害する何かとはなんだったんだろう。


つづく